Interview

proef 斉藤 愛美 ~プロダクトデザインとファッション~

proef(プロエフ)とは斉藤 愛美氏と五十嵐 勝大氏の二人によるファッションレーベル。シンプルな柄をプリントしたストッキングのコレクションで、プロダクトデザインの要素が強い作品を制作している。proefとは、オランダ語で実験、テストという意味の言葉。彼らは、プロジェクトによって、ディレクション、デザインの主導者が異なる。製作の過程で、二人が共有し修正を重ね、最終的な作品へとまとめていくという。Wut berlinをはじめ、都内セレクトショップで今年4月から取り扱われている注目のブランドのデザイナー斉藤 愛美氏にインタビューを行なった。

―まず斎藤さんの経歴を教えて頂けますか

高校は日本の普通科に行きました。それで物心ついたころから靴が大好きで、靴デザインを勉強しようと、1年ロンドンで英語や基礎の部分を学んでその後二年日本で働いた後、
オランダのアーネム美術大学のプロダクトデザイン科に進学しました。海外に行くということと進学校だったこともあって、親にはものすごく反対されましたけど。とにかく普通の4年制大学を出てくれと言われ続けていました。あとロンドンのときにLCF(London College of Fashion)の靴科に受かって行こうと思っていたんですけど、学費が高くて。それだけの投資をして将来返せるか考えて無理そうだなと思ったのでオランダを選びました。オランダって年の学費が20万円とかなんですよ。

―靴について学んでいて、最初に感じたことはどんなことですか?

1つの職業としてしっかりと認知されていると分かったことですかね。日本で靴デザインを勉強するには専門学校で靴作りを学ぶことで、大学でデザイナーとして学位をとることは出来ない。でも向こうは靴のデザイナーとしても学位が認められている。つまり文化的レベルで靴の産業が発達していることを意味していると思ったんです。デザイナーの最低賃金の制度のようなシステムもあることも1つの理由だと思いますが。

―アーネムで過ごした期間はどうでしたか?

ドイツの国境近くの町で、すごく田舎で何にも無いところでした。やる事といえば週末ださい音楽がかかっているバーに行くぐらいなもので。そんな何もファッションやデザインが動いていない場所で「デザインとは何か」みたいなことを延々議論している状況は振り返ってみると異様なのかもしれないと思います。ただ有名なデザイナーも数多く活動している町でもありますし、何にも邪魔されずにひたすら製作に没頭できるといういみではいい環境なのかもしれません。ただほんとうにオランダ人しかいないので私はもういいかなと思ってしまいましたけど。ここを経験したことで、もっとインターナショナルな場所へ行きたいと思うようになって、在学中インターンとして中国に行きました。

―オランダはあまり合わなかったのですか?

すごく人も温かくて、自然がいっぱいで静かで住みやすい場所でした。オランダに居ればデザイナーとして国から助成金も貰えるし、大きなスペースもタダみたいな値段で使える。いいことばかりのように感じるけれど、オランダで過ごした経験を、もっと他のところで活かしたいと思いました。結局どんなに心地が良くても、私はオランダ人ではないですし。

―中国に行って何をされていたのですか?

靴ブランドでジュニアデザイナーの仕事をしていました。デザイナーがレム・D・コールハースといって建築家のレム・コールハースの甥で「靴は最小の建築物」という考えのもと革新的な靴を作るデザイナーでずっと憧れていたブランドでした。それで念願かなってと思っていたんですけど、入ってみると少し違うなと感じてきて。この会社に入りたいがために必死になって今まで勉強してきたんですが私には少し合わない職場でした。

―会社に求めていたものと現実にはどのようなギャップがありましたか?

一言で言えばどうデザインしていいか分からなくなったんですよね。例えば靴ってソールがあって売れるアッパーを今時の感覚でデザインするんですけど、田舎で暮らしていてそういう時代の感覚とか流行に合わせてものをつくるという行為がよく分からなくなっていたんだと思います。

―それでどうしてストッキングを作ろうと思われたのですか?

あれはもともと学生時代に行なったプロジェクトの1つです。2010年のミラノサローネにアーネムのデザイナーでみんなで出展しようというグループプロジェクトがあり、普段は生産路などを考えずにデザインをするのですが、量産できるものという前提で、みんなでコンセプトを立ててそれぞれが作品を作って一緒に展示することを目的にデザインしました。

―どういう発想からあのストッキングは生まれたのですか?

何気ない出来事に角度を与えて、人に何かを気づかせる、考えさせる、その角度がアートのひとつの性質だと思うんですけど、それがデザインにもできるんじゃないかなと思っていまして。そうした考えから表面を作りたいと思いました。人が表面を通して何かを見るということ、このストッキングの例を挙げれば、普段何気なく存在している足というものがあって、そこに規則正しくプリントされた表面を履くことで今まで見えていた足とは違った形態が現れる。

―そこから販売に至るまでの経緯を教えてください。

在学中に五十嵐勝大君と友人を通じて出会い、その後色々話しをしながらある日作品を見せたときに、「プロダクトデザインとファッションの両方の要素を持っていて、尚且つ軽さがあり新鮮。若い子はストッキングになじみがない人も多いけれど、これは絶対みんなもおもしろいと思ってくれる」と評価してくれました。それで私は唆されて今に至ります。笑

―proefの中で五十嵐さんは何を担当されているのですか?

生産管理やマネジメントなどデザイン以外は全てと言っていいほどの仕事を担当しています。いろんな分野の知識があるし、センスもいい人なので、色々アドバイスをもらったりしながら、今後はコンセプト作りや方向性など、一緒に話し合いながらブランドを創って生きたいと思っています。

―このブランドを今後メインにやっていかれるのですか?

今回のrooms23で反響もよかったのでたぶんですけど日本を拠点にこのブランドを続けていくことになると思います。

―たぶんというのは?

スペインで靴デザイナーとして働けるオファーをもらって、靴デザイナーとして会社に就職することが夢だったのでまずそこで少し経験を積もうと思っています。その後はproefで集中して活動していくという選択肢を選ぼうというのが正直な今の心境です。

―どうして就職することが夢なのですか?独立して自由にデザインしたいとは思わないのですか?

自分がまさか独立して自由にデザインできるなんて今まで思っても見なかったし、自分がいいと思える会社でデザイナーとして働けるだけで幸せだと思っています。
今まで自由に生きてきたので何かに縛られて何かをデザインするということが無かったんです。だから逆に窮屈な環境の中でモノを作ることもおもしろいかなと。後は勉強になると思ったからですかね。デザイナーとしてまだまだ足りないところがいっぱいあると思ってます。やはり大きな企業で行われている一連の流れを見ることで、学べることもあるだろうし、逆に小さいからこそ出来ることも見つけられるんじゃないかって。

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